街道歩き資料

大阪の街道 (神野清秀・松籟社)
著者の神野先生は、大阪市立図書館司書から皇學館大学教授となった経歴の持ち主で、古地図の収集をもとに、大阪府下の街道を踏査して表した労作です。大阪府下の28の街道について紹介してあります。大阪を起点にして街道歩きをする方にとってはまとまった数の街道資料です。著者も言っていますが、個々の街道のルートが紙面の都合で巻末の略図のみになってしまったことが残念です。
中山道を歩く 中山道六十九次・街道宿場ガイド 上・下巻 (横山正治・安斎達雄))
街道関連書籍にありがちなハイライト部分だけの紹介ではなく、連続した道としての中山道を案内する実用的な資料です。
上巻は江戸・日本橋から信濃・本山宿まで、下巻は木曽・贄川(にえかわ)関所から京・三条大橋までを収録しています。
全行程に渡って25000分の1地図が掲載されてるので、当日歩く分の地図ページをコピーするだけという手軽さであり,中山道歩きにとって決定版的書籍です。


"きよのさん”と歩く江戸六百里 金森敦子
羽州・鶴岡の商家の内儀・三井清野(31歳)は文化14年(1817年)3月下旬、日光、江戸、京都、大坂を巡る108日間、2,340kmの旅に出ます。のちに化政文化と称されるこの時代は、文化の担い手が上方から江戸や各地方へ、さらにの一般町人にも広がっていった江戸文化の成熟期にあたります。

 江戸の藩邸では、江戸観光に藩士が案内役としてつくなど、商家の内儀に武士が観光案内をするというのは驚きで、実際の身分制度は学校で習う歴史知識とはニュアンスが違うようです。
また江戸や京都で反物や着物など実にたくさんの買い物をしますが、家から為替で送金してもらったり、
品物は飛脚便で山形まで送るなど、当時の金融、物流の具体例が新鮮で、近現代というのは江戸時代から連続していることを実感します。
 日記を通じて伝わってくる”きよのさん”は、おおらかで物怖じせず好奇心旺盛な女性で、旅費やその善し悪し、各地の飯盛女のファッションの批評、出女に厳しかった関所の通り方、あるいは関所抜けの裏技が記されるなどが著者・金森さんの補足説明によっていきいきと伝わってきます。
当時の歩き旅の詳細に触れることで、街道歩きがより楽しめるのではないでしょうか。
定家明月記私抄 、定家明月記私抄 続編 (ちくま学芸文庫) 堀田善衛
 紀州路、熊野街道では王子社の多くに明月記からの抜粋資料が掲示されています。
これを読みつつ足を進めるうちに、後鳥羽院の随員のひとりになったような気分になってきます。
藤原定家は、後年、正二位、権中納言まで出世し、後世には小倉百人一首を残し、現在もなお歌道の名家として残る冷泉家の祖としても名を残しました。
しかし、その定家も後鳥羽院の熊野詣に随行したときには四十歳、ようやく前年に昇殿を許されたばかりです。
自分の子どものような少将どもと混じり、情けなさに身の不運を嘆いたり、、院のわがままに振り回され、咳病など持病をおしての宮仕えの苦労もあるなど、800年前の官僚の日記が身近なものに思えてきます。文明は進んでも人間のやっていることというのは、たいして変わらないものだということをあらためて感じさせます。
都名所図会を読む  宗政五十緒 編
 江戸時代の旅行ガイドブック、都名所図会のうち100編が収録されています。
主に洛中洛外の名所旧跡、神社仏閣を図とともに解説してあります。
神社仏閣の鳥瞰図はもちろん、町中の人々服装や仕草、さまざまな人の旅装など、文字では
なかなか表現できないものも絵で見ることができます。

京の名所図絵を読む
 宗政五十緒 編
 江戸時代の旅行ガイドブック、拾遺都名所図会のうち90編が収録されています。
洛中洛外の外の地域も含むので、山科、嵯峨野など街道の出入り口のあたりも収録されています。
当時の様子をかぶせて見ると歴史の味わいも一段と引き立ち、京都観光もひと味違ったものになるのではないでしょうか。
東海道中膝栗毛 上・下 (十返舎一九・岩波書店)
 東海道中膝栗毛は映画化や翻案されたドラマなどでも有名ですが、省略された部分が多いのが実態です。
江戸を出立した弥次喜多コンビが東海道をお伊勢参りまで行く道中を、名所旧跡、宿場や街道の当時の様子
を生き生きと描写しています。 黄表紙は貸本も含めて広い層に読まれましたが、膝栗毛は軽妙な語り口での
観光ガイドとしてベストセラーになりました。
 伊勢では御師の家や供応の子細がよく描写されて、当時のお伊勢詣りの様子がよく分かります。
また、弥次喜多はあちこちで狂歌を読むのですが、これが傑作です。
膝栗毛のヒットにより続編が出版され、弥次喜多は伊勢から奈良街道を宇治を経由して伏見へ行き京見物をしたあと、淀川を舟で下ります。
「せうべんを 人にのませしそのむくひ おのれものんで よいきびしょよなり」と、弥次さんのいたずらぶりは大人とは思えません。 そうして枚方のくらわんか舟をからかって大坂の八軒家で降りて大坂見物もします。

 作中のやりとりは当時の口語体で書かれているので、特に古語の知識がなくても分かりやすく、なじみのない言葉は下段に脚注があるので思いのほか読みやすいです。
挿絵もありますし、古典とはいえ軽い内容なので、マンガ本のような気楽さで楽しめました。
蛇足ですが、十返舎一九の辞世の句がまたふるっています。
 「この世をば どりゃお暇(いとま)に 線香の 煙とともに 灰(はい)左様なら」
軽妙な江戸時代人に触れてみてはいかがでしょうか。
街道の日本史32 京都と京街道 (水本邦彦・吉川弘文館)
 ~ <街道関係 参考書籍> ~

宝来講道中細見記 (奈良大学・鎌田研究室)
歴史の道調査報告書 第二集 高野街道 (大阪府教育委員会)
奈良県文化財調査報告書第四十五集 伊勢本街道 (奈良県教育委員会)
奈良県分解材調査報告書第四十三集 竹内街道 (奈良県教育委員会)
天武・持統朝 その時代の人々 (橿原考古学研究所附属博物館)
飛鳥・藤原京展 (奈良文化財研究所)